※まだ見ていない人には、若干ネタバレになる可能性があります。
米国ドラマ『スーツ』のシーズン3、第13話から、ビジネスで使えたら自分のキャラクターを印象付けられる表現を取り上げるシリーズも、ついに今日で7日目、1エピソードをカバーするのに1週間もかかっています。
今日も、いつも通り、カッコいい表現、ユーモアに飛んだ表現、スマートな表現、教科書には書かれない一歩先をゆくノンネイティブのためのビジネス英語を選んでいきたいと思います。
For all I know, this deal’s the best I’m ever going to get.
俺が知る限り、この取引は最高だ。
この構文には主語”I”が2回出てきますが、日本語で2回いうと回りくどいので1回にしました。ここにも英語と日本語の習慣の違いが表れています。
for all I know = as far as I know, 私が知る限り。私が知っている内で。
the best I ever going to get = 私が得られるであろう最高のもの。
Stemple’s been outhiking me ever since I met him.
ステンプルは俺と出会ってからずっと、俺より上手だ。
outhike = outwalk = outperform。自分より長い距離を歩く。ここでは自分より上を行く。
Harvey: Stemple’s been outhiking me ever since I met him. You’re the only other person who’s ever done that. I need your help.
ステンプルは俺と出会ってからずっと、俺より上を行っている。そんなことをやってのけたのは、ヤツ以外ではあんただけだ。あんたの助けが必要だ。
ハーヴィーが珍しく謙虚に相手の実力を認め、ジェシカに助けを求めています。
本当に仕事ができる男は、意味のないプライドなどを振りかざさず、自分より実力のある人間を素直に認め、必要とあらば仲間の助けを求めます。ここがハーヴィーの魅力の一つだと僕は思います。
You know who handed me every one of those losses?
私にすべての黒星を与えたのは誰だと思う?
You know…? だと思う?
hand me losses 黒星を与える= defeat me, beat me, 私に勝利する。
ジェシカは自分がテニスをやっていた時の経験をハーヴィーに打ち明けます。テニス・プレーヤーとしてのジェシカには、絶対に勝てない相手がいたと。
Do you want to beat him, or do you want to settle?
あなたは彼を倒したいの?それともこの件を示談で納めたいの?
settle = 示談で終わらせる。
国際ビジネスでは、中国系の相手と交渉のテーブルにつくことがあります。その場合相手は、古代中国の戦略書、『孫子の兵法』に基づき、相手を撃破せずして目的を達成しようと試みて来る場合があります。
そして、それは多くの場合、相手を倒したいという感情論を度外視すれば、お互いに有益なwin-winを築ける場合が多くあります。
しかし、時には、取引を上手くまとめることよりも、相手の撃破が最大の目的となる場合もあります。
以前お話ししたように、企業における海外とのビジネス交渉や社内政治は、時として弾薬を言葉に変えた血を流さない現代における戦争であり、そんな時は相手の息の根を完全に止める必要があります。
僕もライバルの息の根を止めなかったばかりに相手の復権を許し、結果失脚の時代を招いた苦い経験もあります。
その辺りはこちらの、Robert Greeneの著書、The 48 Laws Of Power (The Robert Greene Collection) (The Modern Machiavellian Robert Greene) に詳細に書かれています。
まだ英語中級くらいの方には少しハードルが高いかも知れませんが、ものすごく有益な情報が詰まっていて、かなり参考になりました。ページ数も多く、読むのは大変ですが、要点の48箇条だけでもネットで調べて解読してもいいかも知れません。
Jessica: Do you want to beat him, or do you want to settle?
Harvey: I want to leave an Eliot Stemple S skid mark.
ジェシカ: あなたは彼に勝ちたいの?それとも示談で納めたいの?
ハーヴィー:俺は某エリオット・ステンぷるという奴の顔面にタイヤの跡を残してやりたいんだ(ぶちのめしてやりたいんだ)。
leave someone skid mark = 誰かにタイヤの跡を残す、つまり屈辱的な完敗を味わわせる。
an Eliot Stemple = 1人のエリオット・ステンプルなる人間。
この不定冠詞(“a”だがアイウエオの母音の前なので”an”)が誰かの名前についた場合は、「ある1人の〜とかいう人」という意味で、これも英語ならではの表現です。
このエリオットという男自体にあまり拘っていない事を示しているようですが、プライドよりも優先して、そのエリオットという男に屈辱的な敗北をプレゼントしたいと思っています。
つまらないプライドよりも、自分の欲しいものを手に入れることを優先する、それこそが自分のプライドだと考える。ハーヴィーの人間性がよく出ています。
Fighting is stepping into a trap.
真っ向から戦うのは、相手の罠にかかりに行くようなものだ。
これはそのままです。こういう場面は、競合との駆け引きで結構あります。
Harvey: Jassica has a plan. Fight is stepping into a trap. We’d be giving him exactly what he wants.
Mike: Jessica was wrong.
Jessica: Is that a fact?
ハーヴィー:ジェシカには策がある。真っ向から戦うのは、相手の罠にかかりに行くようなものだ。
マイク:ジェシカは間違っている。
ジェシカ:本当にそう?
現在の話をしているのに、マイクがなぜJessica was wrong.と過去形のBe動詞を使っているのか考えてみましょう。
仮にここでマイクが”That wouldn’t work.”その策は失敗する、と言った場合は自然に聞こえますでしょうか?
その場合はなぜ”will”ではなく”would”なのか?マイクの頭の中では、その方法は採用しないと思っているから、仮定法過去(hypothetical past)になのでしょうか?
このように英語にはなかなか正解はわからないが、なぜか習慣的にネイティブが使っている方法があり、その場合、私たちノンネイティブは帰納法的に考えるしかありません。
哲学的な言い方ですが、日本語で完全に説明できる英語のルールなど、存在しないからです。
極端に言えば、林檎 = appleではないという事です。
apple = apple, not 林檎です。僕は、これを理解するのに数年かかりました。
余談でした。
Don’t you look ready to rumble?
俺とドンパチする気ありそうじゃないか。
Don’t you look …? = 否定の疑問はつまり、そう見える。
redy to rumble = 戦う気がある。戦闘態勢である。rumbleはゴロゴロいう事だが、交戦する意味もある。
We want to take your deal, with a small change.
俺たちはあんたの申し出を受けたいと思う。ちょっとだけ変更を加えてね。
この途中にあるカンマは、あってもなくても同じ意味ですが、話す際は短い間を置きます。そして、あるのとないのでニュアンスが全然違います。
Harvey: We want to take your deal with a small change.
俺たちはちょっとした変更条件付きで、あんたの申し出を受けたいと思う。
Harvey: We want to take your deal, with a small change.
俺たちはあんたの申し出を受けたいと思う。ちょっとだけ変更を加えてね。
本来はこのカンマ以降の内容はあまり重要でない補足情報を表し、それがなくても意味をなします。
ただし、あえてそういう言い方をしているのは、実はその「変更条件」が重要だからです。
I’m not lowering the amount.
金額を下げるつもりはないよ。
ビジネス交渉では、お互いに時間の無駄を省くため、絶対にここは妥協できない、というポイント(deal-killer, deal-breaker, walk-away conditionなどと言う)を先に潰しておくのが鉄則です。
エリオットはハーヴィーの言葉に何かを感じ取り、まず牽制をしてきます。
Eliot: I’m not lowering the amount.
Mike: No, don’t warry. Intead of 10 million dollars, we’d like to give you 100 million.
Harvey: Because that would still cost us less than if we fought you and got this.
エリオット:額を下げる気はないよ。
マイク:いや、その心配はご無用です。(提示された)1000万ドルではなく、1億ドルを支払いたいと思います。
ハーヴィー:なぜなら、それでもなお、私たちのコストは、あんたとまともにやりこれを手に入れるより抑えられるからな。
そう言って、ハーヴィーは小さな物体を法廷のテーブルに静かに置きます。
Eliot, I’m giving you a dignified way out, chance to really put it to bed.
エリオット、俺はあんたの顔を立てて退路をやる。本当にこの件に終止符を打つチャンスだ。
dignified = 威厳のある。
グリーン曰く、敵を打つときは相手が再起不能になるまでやる必要があります(Green, 2000)。
しかし、相手を含め周囲には、こちらは相手に対して温情を与えているように(magnanimous)見せなければなりません。それが英語圏でいうところの騎士道、日本でいうところの武士道、「武士の情け」です。
抗う相手の首は容赦なく斬るが、名誉はまもる、という事です。
この、put it to bed(問題を解決して葬る)という表現は、一昨日のエントリーで紹介した、エリオットがハーヴィーを騙すために人演技打った時に前回で使ったフレーズです。皮肉にも、自分の策を相手の勝利宣言に使われ相手の敗北感をより高める効果があります。
Harvey:Eliot, I’m giving you a dignified way out, chance to really put it to bed. Now the judge is goinna bang the gavel in 30 seconds.
エリオット、お前に名誉ある退路をやる。この問題に終止符を打つチャンスだ。さあ、裁判長はあと30秒でハンマーを叩くぞ。
bang the gavel = 裁判のハンマーを叩く。評決を下すの意味。
ハーヴィーたちがエリオットをどのようにして撃破したのかは、本編をご覧いただければと思います。
You were responsible for beating Stemple.
ステンプルに勝てたのは、あなたのおかげ。
respinsible for something = 何かの責任がある、と言えば、通常、特に日本人は、ネガティブな事だけを考えがちですが、実は首謀者、功労者の両方の意味があり、He’s responsible for the success of this project.というような言い方もあります。
こういうのも英語の面白いところですよね。
Donna: Fine, you were responsible for beating Stemple, but I was the one who told you about Harvey’s losses in the first place.
わかった。ステンプルに勝てたのはあなたのおかげ。でも、もともとハーヴィーの敗北について教えてあげたのは私だからね。
Doesn’t happen every day.
毎日起こる事じゃない。
ジェシカが、ハーヴィーに勝利をもたらしたマイクへの褒め言葉です。
毎日起こる事じゃない、つまりなかなかできる事じゃない、という事をかなり婉曲した言い方をしています。
Not too bad. の延長線上のようなものですね。
Mike: Oh, we didn’t just win.
Jessica: I know. You got a Fortune 500 company to publicly admit wrongdoing. Doesn’t happen every day.
Mike: So why don’t you look happy?
マイク:いや、勝っただけじゃないですよ。
ジェシカ:知ってます。あなたはフォーチュン・グローバル500の企業に、公式に不祥事を認めさせた。
マイク:じゃあもっと喜んでくれたらそうですか?
It’s a sign of respect.
尊敬している証拠だ。
a sign/token of gratitudeは、感謝している証拠/感謝の印などこれに似た表現もあります。
今日はここまでにしましょう。あと残り5分ほど。ここまで長い道のりでしたが、エンドが射程距離に入りました。
それでは、Until next time.
References
Greene, R. 2000. The 48 Laws Of Power (The Robert Greene Collection) (The Modern Machiavellian Robert Greene). Profile Books Ltd.
“Moot Point” (2014) Suits, season 3, episode 13. Directed by Kevin Bray. Written by Aaron Korsh and Daniel Arkin, March 20.