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『スーツ』の英語表現⑧ – 仕事場は戦場。いい人では生き残れない。売った恩を回収するには?

※まだ見ていない人には、若干ネタバレになる可能性があります。

米国ドラマ『スーツ』のシーズン3、第13話の英語表現を1週間以上前から毎日少しずつ解説してきましたが、ストーリーはやっと終盤に差し掛かりました。

ここではストーリーを解説するのが目的ではないので、あくまで初期の目的、英語のテキストによく書かれた基本的なイディオムではなく、それよりさらに一歩踏み込んで、自分のキャラクターを海外のビジネス・パートナーに印象付けるのに使える表現を選定して参ります。

このシリーズを最初から読む場合。

What I’m asking for in return doesn’t even come close.

その代わりに俺が頼んでいる事は、それに比べたら些細なものだ。

in return = お返しに。

doesn’t even come close = 何かに比べたらどうって事はない(僅差でもない)。

ルイスは、スコッティとの戦いに負けた場合、自分には何も残らないと思い、ハーヴィーに力を貸してくれと頼みます。

ルイスはハーヴィーに「貸し」があります。

彼はなりふり構わず、その「貸し」を使って、この戦いに勝とうとします。

スコッティがルイスに負けたとしても、彼女はこのファームに残れるが、自分には後がない、という事をハーヴィーに訴えかけます。

仕事をしていれば、誰かに貸しや借りを作る事はあります。

問題は、いつ貸しを使うか、です。

誰かとの関係を清算するリスクを負ってでも、その人にしかできない何かをしてもらう必要がある時、そのカードを切るときは来るでしょう。

プライベートの友情は理屈を超えた無償の愛がベースになっていますが、基本的にビジネスの関係はギブ・アンド・テークです。

悪い言い方をすれば、こちらから何か与えられなければ、相手もこちらに興味も示さない。

だからいざという時にこういうカードは切らなくてはなりません。

その覚悟もできず、ただギブだけしているようでは、残念ながらあなたはギヴァー(giver)の烙印を押され、テイカー(taker)の食い物にされます。

そしてギヴァーは、最終的には舐められてカモられて、サッカー(sucker)に成り下がります。

だから、「NO」が言えない日本人は、リスペクトされないのです。

Are you asking as a friend, or are you calling in a chit?

お前は友達として頼んでいるのか?それとも恩返しを求めているのか?

call in a chit/call in chits = 過去の恩に報いる事を求める。

ハーヴィーは友人と恋人のどちらの肩を持つのか、という洗濯に迫られました。

そして、俺は仕事のやり方で友達とは接しないとルイスに返します。

そしてその後のセリフがこの究極の選択を迫る質問です。

逆に自分が恩返しを迫られ、友達としてなら損得勘定なしで助けたいが、ビジネスとしては冷たくあしらいたい場合、あるいはその逆の場合、相手の意図を確認します。

本当の友達なら、ここで騙したりはせず、正直な気持ちを話してくれるはずです。

友情を信じるなら、その言葉を信じて助けてあげればいいし、万一裏切られるリスクを負ってやる事が自分の信じる価値に従うことになります。

相手が”I’m calling in a chit. I’m just asking for a favor in return.”というなら、それはあくまでビジネス取引。頼みを受けてやる事にどれほどの価値があるのかを考えて判断するだけです。

You can’t have it both ways.

どっちも欲しい、というのは認めない。

ルイスのハーヴィーの質問に対する答えは、”I’m calling a chit.”でした。

ハーヴィーは失望のまま、”So be it.”だったらどうなろうと関係ないと交渉決裂の意を示します。

Louis: I’m calling a chit.

Harvey: …So be it.

Louis: Are you mad?

Harvey: I’m disappointed.

Louis: Wait, Iー

Harvey: You can’t have it both ways, Louis.

ルイス:恩返しをしてほしい。

ハーヴィー:・・・だったら俺の知ったことじゃない。

ルイス:怒ったのか?

ハーヴィー:失望した。

ルイス:待ってくれ、俺は−

ハーヴィー:両方はダメだ。

交渉では常に自分が相手の出方を伺うように、相手も自分の事を評価しています。

言葉一つの選択ミスが、決裂や今後の関係に取り返しのつかない傷を残す事態を招くことがあります。

肝心なのは、相手の信じる価値を見極めること。

虫のいい相手には、このような一言をかます必要があります。

でもルイスは、きっと必死で考え、友達としてハーヴィーに助けを求めるより、過去の恩をカードとして使うことを選択しました。ハーヴィーの自分への友情の強さを信じられなかったのでしょうか、あるいは、友として劣勢に立ちたくないというプライドの現れでしょうか。

結果的にこれが、ハーヴィーの感情を傷つける事となってしまいました。

ハーヴィーは熱いヤツです。やっぱりアメリカでも、仕事に対しては冷徹なところがあっても、心の根っこの部分は人間の感情があるヒーローの方が魅力的なのでしょう。

そういえば、ゴルゴ13も、意外にそういうところあることを思い出しました。

I just wanted to have all of it ready.

すべての準備を整えたかった。

have something ready = 何かを備え付ける。何かをセットする。準備を整える。

マイクがレイチェルの待つ2人の新居のアパートに戻ると、すべての家具が備え付けられていました。

それを見てマイクは驚きます。

Rachel: What do you think?

Mike: I think that I can’t believe you did all of this ine one day.

Rachel: Well, I’ve been working on it since I got home. I just wanted to have all of it ready, so we could celebrate your big win.

レイチェル:これどう?

マイク:君が1日でこれ全部やったなんて信じられないな。

レイチェル:えーと、今日は家に帰ってからずっとこれをやってたから。とにかくすべての備え付けを終わらせたかったの。あなたの大勝利のお祝いができるように。

この大勝利とは、昨日登場したイディオムの解説でも少し触れましたが、マイクの活躍により、ハーヴィーは裁判で大勝利を納めました。

Was Harvey appreciative?

ハーヴィーはちゃんと評価してお礼を言ってくれた?

英語のappreciateという動詞と、appreciativeという形容詞は、認めることと、感謝することと、リスペクトのすべてを表した単語です。

日本語ではそれらは別々の概念ですが、英語では同じ概念だとも言えます。

しかし、日本語の方が豊かな言語というわけではなく、それも新しい世界観です。

いうまでもなく、この Harveyという単語を別の人の名前や代名詞に変えることで、あらゆるシチュエーションで応用できます。

Rachel: Was Harvey appreciative?

Mike: Yeah, are you kidding? He took me out to dinner.

take someone out to dinner/lunch = 誰かをディナー/ランチに連れ出す。招待する。

Next thing, you know, you are getting a promotion.

次はやっぱり昇格だね。

next thing = 次は起こることとしては。

ディナーの次は昇格だと冗談っぽく言うレイチェルに、マイクは寂しそうに「そうだね、次は・・・」と答えます。

このフレーズも、きっと仕事で同僚を祝福する時に使えることでしょう。

とは言え、自分がマネージャーになって自分のチームメイトを昇格させる側になると、そういう事を冗談っぽく話す機会はなくなりますが。

You were in such a good mood earlier.

さっきまであなたはあんなに機嫌が良かったのに。

英語にこの場合の日本語の「のに」は、ありません。でも日本語では、それがないとやや不自然で意味が通じなくなります。

英語を学ぶことは、こういった微妙な考え方の違いを発見するところにあると思います。

こういった違いに興味を持つことができれば、習得は本当に早くなります。

in such a good mode は、そんなにもいい気分だった、という意味ですが、ノンネイティブはこの”such”の位置を間違えがちなので注意しましょう。

What just happened to our boss? He was in such a good mood a while ago?

一体俺たちのボスに何があったんだ?少し前はあんなに機嫌良かったじゃないか。

I guess we are not sharing everything with each other after all.

どうやら、私たちはなんでもお互いに打ち明け合ってるわけではないようね。

share everything with each other = すべてを(秘密も)打ち明け合う。

after all = 結局のところ。

ハーヴィーは結局、ルイスを助けることにします。

そして、スコッティに、これ以上ルイスを陥れないために、彼から奪った仕事を返してあげるよう懇願します。

ルイスの肩を持つ訳を言えないハーヴィーに、スコッティはこのセリフを言います。

仕事をしていれば、裏切られることもあるし、信頼していた人間が、やはり信頼できないのだと感じることもあります。

日本では、夫婦やパートナーの関係を長く保つ秘訣は、ある程度お互いに秘密や道の部分があった方がいいという考え方もあるようですが、このドラマを見る限り、アメリカでは恋愛も結婚生活も友情も、基本は絶対的な信頼関係で成り立っているようです。

そのくせ女性は男性のmysteriousな部分に惹かれるので、人間は矛盾のある生き物だと言うことです。

Am I talking to my boyfriend, or am I talking to a name partner?

私は私の彼氏と話してるの?ネーム・パートナーと話してるの?

「ネーム・パートナー」とは、会社の名前に名前が入っている、最高位の弁護士(あるいはその他のコンサルティング職)のことです。

彼らの所属する弁護士事務所(law firm)の名前がピアーソン・スペクターで、このスペクターはハーヴィーの苗字のSpectorのことです。

今度は、ハーヴィーが究極の選択を迫られることになりました。

ここまでくると、ちょっとメロドラマっぽいので、あまり実用性はない気がしますが、一応ルイスのセリフと対をなすので、こちらも記載しました。

Dana: Before you say what you’re about to say, I need to know: Am I talking to my boyfriend, or am I talking to a name partner?

Harvey: That depends on your answer.

Dana: You can’t have it both ways, Harvey.

Harvey: Then you’re talking to a name partner.

コントみたいになってきましたが、これでシーズン3の第13話は終了します。

それにしても、長かったです。

1エピソードの会話から、教科書イングリッシュから一歩進んだ、自分のキャラクターをネイティブや海外のビジネスパーソンたちに印象付けるフレーズを書き上げたいと思い、始めた企画でした。

よく英語の参考書などを買うと、無機質で会議やEメールによく使われる基本的なフレーズは紹介されていますが、個性の際立つスタイル、キャラクターを重視した表現は少ないのが、僕にとってのフラストレーションでした。

そこで、こう言うドラマの濃いキャラクターのセリフから、何か学べるものはないだろうか、そしてそれをビジネスの場で使えないだろうか、そんな思いから、やってみたのですが、なんと完結まで8日もかかってしまいました。

僕は、自分の好きなキャラクターになり切って、まずはマネから入るのもありではないかと思います。

大丈夫、ドラマのセリフを一字一句覚えてるネイティブなんてそうそういませんし、自分なりにアレンジすれば、バレません。

僕も、映画やドラマから英語を学んだ一人です。

References

“Moot Point” (2014) Suits, season 3, episode 13. Directed by Kevin Bray. Written by Aaron Korsh and Daniel Arkin, March 20.

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