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クリティカル・シンキングとソクラティック法で転職とキャリアを制するには

今回は、組織に所属しながら採用に携わる僕が、これから組織に必要とされる人間の条件として、クリティカル・シンキング・スキルを上げ、それを向上される方法として、哲学者ソクラテスが使っていたソクラティック法を提案したいと思います。

採用市場を見ても、残念ながら日本人の競争力の低下は明白です。外資というオープンな組織だからこそここに目を向ける、というのもありますが、日本人候補と比較して、外国人勢の(多少の日本語能力のハンデを考慮しても余りある)スキルの高さと賃金要求の低さに驚かされます。

そこで、日本人候補者に足りないものを分析しました。いかがその要約です。

管理者として採用に携わって実感する日本の衰退

僕は外資企業の日本法人の事業部一つを持つ責任者をしています。いわゆる管理者です。

管理者にとって必要なのは、ポテンシャルのある人材を集めて良いチームを作り、そのチームが最高のパフォーマンスを出せるような環境を整えることです。

マネージャーとしての成功は、これができるかどうかに掛かっていると言っても過言ではないでしょう。

中にはいつまでも部下と同じ土俵で部下に実力マウントを取り続けることで自の立ち位置と自我を保とうとするマネージャーも残念ながら一定数存在しますが、そういうのは問題外で、僕は自分の周りのそういうマネージャーを反面教師にしてきました。

当然、採用は重要なタスクなので、これまでの何年間かの経験を経て、自分なりの人を選ぶ指標ができました。

採用市場に見る、外国人勢の圧倒的パワーの正体

詳しくは別の機会にお話しできればと思いますが、結論として、自分のチームから男性と日本人が少なくなっているのを実感します。

リクルータから送られて来る、彼らのフィルターを通過した経歴書を見ていい人を選ぶと、性別や国籍で差別するわけではないのに、自然とそうなっています。

そして、面接でいい印象を持つのも、たいてい外国人の女性が大半を占めています。

その理由を自分の参謀的な人と一緒に分析しました。

結論をいうと、単純に英語力ではありません。

いや、もちろん、英語と日本語をマスターするパワーのある人は、きっと他の分野でも成功している、というのはあります。

ただ、僕が勤めているのは外資系日系企業なので、ターゲットは日本市場であり、日本語は必須ですが、英語はそこまで重要ではありません。はっきり言って、ビジネス・レベルの英語が話せれば優秀な方です。

もっと上のジェネラル・マネージャーなどのポジションを目指すのであれば、話は別ですが、英語力はベーシックでも、年収1000万円を超えるくらいなら可能です。

そのポジションに、日本語ネイティブを採用するのは、なぜでしょうか。そこをもっと追求することにしました。

目的意識、モチベーション、推進力の差

まずは経歴を見て、同じ年齢でも過去の経歴にその差が現れます。

こうした優秀な外国人勢は、中国、韓国、台湾、ベトナム、ロシア、ウイグル、トルコなど国籍はさまざまですが、日本という国を選び、自らのハンデキャップを自らの努力でカバーし、外国語である日本語を習得して、日本人のそれも男性社会の中で、高い功績を上げています。

新規開拓だけで売上を昨年比で500%引き上げました、なんてのはザラです。

日本語はまだ少し訛りがありますが、貪欲に日々日本語力を研鑽し、自分の限界を越えようとしています。

間違った日本語を指摘されてもくだらないプライドを持ち出さずに素直に聞き入れ、もっと教えてくださいと言ってきます。

実績の差

彼らは、常を笑顔をたやさず、まるで努力する事が嫌じゃないかのようです。

当然、一緒に仕事をする人間も心地よいし、頭脳も明晰とくれば、顧客からも好かれます。多少の天然ボケはむしろアピール・ポイントになります。

そして、それだけのスキルを持ちながら、日本人の半分か3分の2ほどの年収で喜んで日本で仕事をしたがります。それでも日本でキャリアを積むと決めて来ているから、そういう不利な境遇は覚悟の上です。

僕はむしろ、そういう人材が応募してきたら、男性でも女性でも20〜30%上乗せして市場価値に近い形に年俸引き上げてでも、自分のチームに入れるようにしています。

自己責任の時代、でも誰もが責任とリスクを回避する

この状況を見て、危機感を覚えない就活者の日本人がいたら、もはやそれは絶望的だと言っていいでしょう。

今は、努力はしなくて良い、楽な方に逃げることは何も間違っていない、という風潮になりつつありますが、自由や権利の裏側には常に責任がついて回るという大原則は無くなっていません。

いや、むしろ今の方が厳しい世の中になりつつある。

それなのに、判断力がなく、メンタルの弱い他人に檄を飛ばしてくれる人はもういなくなりました。

これは僕の実体験に基づくことではありますが、結局、自分から努力をすることが一番リスクが少なく、もっとも経済的な方法なのに、そして唯一の注意点は、努力の方法を選ぶ時少しだけ知能を使うことが必要なだけなのに、弱者には優しいようでとことん容赦のない時代だと思います。

どうしても落とさざるを得なかった日本人候補者にない、決定的な要素は何か。

僕が出した答えは「クリティカル・シンキング」の能力でした。

クリティカル・シンキング・スキルの差が全ての差を生んでいる

それは、自分の頭で考え、自分の意見を持ち、それを主張し、言葉通りに実行する力です。

行動力もさることながら、まずは賢いアクションを起こすために、この情報が溢れた時代だからこそ自分なりに咀嚼して考える力が必要です。

ここでは、これを「クリティカル・シンキング・スキル」と定義します。

書類選考で落とした日本の候補者は、まず経歴書に”華”がなかった。前職で具体的にどんな功績を上げ、どのような形で組織に貢献したのか明確に書かれていない。

次に、面接をしても質問の答えがテンプレートのように特徴のない物ばかり。

採用に携わる以上、面接の教科書なるものが存在する事は知っているし、そこでどんな「正解」が教えられているかぐらいは把握しています。

当然、「個性」は教えませんし、面接は自己を表現する場ではなく、模範候補の演技をするように教えることも知っています。

もちろん、中身が組織にとって魅力的でなければ(いくら人間的には魅力的でも)、自分の個性を思い切り全面に押し出しても面接は通らないでしょう。

でも、だからと言って、面接官もプロなので、候補者が嘘を言っていたら大抵すぐバレるし、その嘘を見抜くための矛盾をつく質問の仕方も心得ています。

例えば、「弊社を希望する動機は?」という野暮な質問があります。

質問される側からしたら、何って、書類選考がたまたま通ったから面接に来ているだけに決まってるだろ、と思いながらも、口が裂けてもそんな事は言えないので「御社の会社理念に感銘を受けました」とか、自分のストーリーと結びつけて、だから御社じゃなきゃダメなんです、などと白々しい嘘をつく。

その瞬間、僕なら、あなたは当社理念をどう解釈し、どう思うか、あなたの言葉で言ってくださいと質問をします。その瞬間、大抵の候補者は崩壊します。

採用面接で面接官と駆け引きと交渉を楽しむ

上記のように志望動機を質問された時、もう少しレベルが高い人は、「自分がこの会社で何ができるか」ではなく、「自分がこの会社に対してどんな貢献ができるか」を具体的例を用いて説得力のある説明を試みます。

Ask not what your country can do for you, but ask what you can do for your country. – John F. Kennedy

(祖国があなたに何をしてくれるのかではなく、あなたが祖国のために何ができるかを考えてくれ。 –ジョン・F・ケネディ)

JFK library, 1961

それができたら、例えば応募するポジションが営業職の場合、面接官は、この候補者は相手の興味のあることを中心に話すことができる人だと判断できる。

しかし、応募するポジションに求められるレベルがある程度高い場合、タフな面接官は、それだけでは納得しません。あえて、

「当社ではなく、あなたにとってこの会社に入ることにどんなメリットがあるのですか?」

聞いてくるかも知れません。

でも実はこれは、候補者に向かってトスを投げているのです。

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採用側にとっても、相手にとってのここで働くメリットがわからなければ、採用しても相手がいつ辞めるかわからないし、そのメリットがサステナブル(sustainable)、つまりずっと与えられるものでなければ、その条件が無くなった時にやはり辞めてしまうリスクが高い。

このご時世、優秀な人材が定年まで同じ会社にいるは思わないません。能力のある人材にとっては、どんな会社もただのキャリアアップのための通過点に過ぎないこともわかっています。

しかし、最低1-2年くらいは勤めてもらわないと、本人へ支払う年俸はともかく、トレーニングやリクルータに支払うコンサル料がペイしない場合が多いため、採用したら何年働いてくれるかは考慮する要素です。

従って本当の上級者は、自分が採用された場合の自分にとっての利益と、会社に与えられる具体的な貢献度の両方を、志望動機の質問に対する答えで示すことができます。

そして、その内容と、その候補者のこれまでの経歴に一切の矛盾がなく、すべての行動に説得力があり、行動力がある。自分をよく知っており、人生の目的もハッキリしており、そのためにこの会社に入ることが必要であり、会社にとっても大きなメリットがある、ということを一本のストーリーで示します。

そして、動機と目的が明確なので、大体どれくらいの間会社に在籍するつもりがあるのか、どれくらいの期間の関係を望んでいるのかも見当がつく。

つまり、面接の場で、会社と自分を対等に並べ、win-winを提案できるのです。

面接官(つまり次の自分のボス)にこれを納得させることができた候補者は、多少の高待遇でもすぐ採用されます。

採用側にも問題がある場合がある

しかし、採用側にも、原石を見抜く力がない場合があります。

僕の経験上、人事部のできない人ほど、候補者のポテンシャルを積極的に見ようという意思がありません。

自分で人を見る目を磨き、自分の判断を信じようとせず、同業の実務経験年数とか、すでに実績のある人だけを採用しようとします。リスクを取りたくないから、他の人がすでに下した判断に頼っているのです。

実績だけで人を評価し、ポテンシャルを見抜けないなら、何のための人事のプロで、何のための採用者なのかわかりません。

第一僕なら、「競合に寝返る」だけの明確な理由が説明できない人は、そもそも信用できません。

業界の経験不足は、目的意識とモチベーションでカバーできます。しかし、人間性や人生における価値観は、トレーニングで変えることはできません。

日本の教育では、クリティカル・シンキング力は養われない

クリティカル・シンキングは、日本の教育とはあまり相性が良くありません。

教科書を暗記する力が求められ、自分で考え、自分の意見を持つことが奨励されない日本教育では、そういったいい意味で図々しい人間を育てることは困難です。

こういうことは、もう何十年も前から言われているのに、戦後の日本の教育はほとんど変わっていません。

どちらかというと、自己主張したり、自分に与えられた権利を使うことは教えられましたが、権利を使うことは自己責任が伴うことまではあまり教えられていないようです。

クリ・シンはソクラテスの時代から始まっている(ソクラティック法)

ここからは、僕からの提案です。

このクリティカル・シンキングを養うには、古代ギリシアの偉大な哲学者ソクラティスが用いた、ソクラティック・ダイアレクティック法、別名ソクラティック法(the Socratic method)が効果的です。

この方法は、現代においても、クリティカル・シンキング力を養うのにロー・スクールなどで使われていますが、この方法は弁護士や法務学者の専売特許ではなく、人生そのものにおいて使える方法です。

この方法では、先生と生徒が対話をする形で学習が行われます。

先生は「お前は間違っている」とか、「正しい答えはこれだ」という形で教えることはありません。

ただ、先生は生徒に質問をしていきます。

生徒の答えに矛盾があれば、その矛盾を深堀りする質問をします。

生徒が何かの固定観念に囚われていたら、もしその固定観念が真ではなく偽だったら?という質問をします。

例えば以下のような会話があったとします。

先生:あなたは、"容疑者"が有罪だと思いますか?

生徒:はい、有罪だと思います。被害者から"バスケットボールのようなもの"を投げられたからと言って、そばにあった果物ナイフで胸を刺すなど、残忍で、情状酌量の余地もありません。もちろん、容疑者が主張する正当防衛など、認められるはずがありません。

先生:なるほど、では聞きますが、"被害者"が持っていたのはバスケットボールではなく、実は拳銃であった場合も、同じ結果だったかね?

そこで、生徒ははっとします。

自分が最初に下した判断は、まず”被害者”がバスケットボールを”容疑者”に投げつけ、それで逆上した”容疑者”がそばにあったナイフで”被害者”を刺したのだという前提に立っています。

しかし、もしその前提そのものが間違っていたら?

このように対立する思考をぶつけて、前提条件を疑ってみる。これがソクラテス式クリティカル・シンキングの基本です。

日本社会の中では、何かが正しいかどうかよりも、誰がそれを言ったか、そちらばかりが重要視されることがしばしばあり、社会的地位のある人間(政治家、有名人、専門家、”先生職”、評論家と称する人間など)の言うことは盲目的に信じるところがあります。

逆に、アンチと呼ばれる人は、特定の人の発言は無条件で全否定しようとします。

これでは簡単に情報の被害者になってしまうのは明白です。

まとめ

採用面接から、社内会議、交渉など、ありとあらゆる場面で、クリティカル・シンキングが必要になってきます。

逆に、クリティカルな思考が潰され、すべてにおいて右にならえの人間が必要とされ、重要なポストに着く組織は、価値を生み出すことができず、早かれ遅かれ潰れるでしょう。

そんな沈む運命の船に乗り続けることほどリスクの高いことはない。

このソクラティック法が浸透すれば、日本人の人材プールの中からも、もっと良い候補が出てきて、日本の法人は競争力が強くなり、世界を舞台にしてビジネスをする日本人が増えていくのではないか。

そんな思いから、僕が管理する法人の名前は、ソクラティックにしました。

References

ennedy, J. F., 1961. JFK Library. [Online]
Available at: https://www.jfklibrary.org/sites/default/files/2018-06/Ask_not_what_your_country_can_do_for_you.pdf
[Accessed 1 September 2002].

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