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インダストリー4.0以降の市場背景
DXやindustry 4.0のトレンドが話題に上がってしばらくになります。コロナの影響で、世界中でその影響は顕著になって来ました。
私が通うイギリスの大学院のオンラインEMBAのクラスでも、その事がよく話題に上がっています。
同じ論文を読むにしても、2020年の「コロナ前」と「コロナ後」に上梓されたものは、文献の重みが全然違ってきます。
“国際ビジネス”というゲームのルール自体が、2020年のコロナのアウトブレークを境に大きく変わってしまったからです。
かつて35歳以上でキャリアアップを狙っての転職、いわゆるミドルクラスあるいはエグゼキュティブクラスの転職やヘッドハンティングの鍵となるエンプロイアビリティーの肝は、「リーダーシップ」でした。
しかし今、それは欧米や中国、韓国において「e-リーダーシップ」という概念が生まれ、従来のリーダーシップと引けを取らないほどの重要性を持っています。日本も時間の問題でそうなるでしょう。
eリーダーシップとはつまり、デジタルのリーダーシップです。デジタルとは最新のITテクノロジーのことです。
かつて酒、ゴルフなどの接待を行い、顧客にとにかく足繁く通い、”足で稼いできた”営業部長は、かつての影響力を失いました。デジタルマーケティングのスキルなければ多くの会社にとってお荷物です。
デジタルマーケティングの他、営業なら営業マネジメントやBIツール、CRM、海外のベンダーやクライアントとの英語や中国語でのコミュニケーション、Zoom会議のファシリテーション、プレゼンテーションのスキルなども必須になっています。
10年の経験を持つ個人よりも、10年分のデータがアーカイブされたデータベースに一瞬でアクセスし、必要な情報を取り出して活用できる能力の方が効率的な場合が増えてきました。
そこで今日は、2021年に行われた、マレーシアのUCSI大学と台湾の台中にあるアジア大学の共同研究で、SNSインフルエンサーによる18歳から25歳までの若い消費者に対する購買行動に与える影響に関する論文を読みました。
結果1:インフルエンサーは確かに存在する
それによると、インフルエンサーが投稿した意見には、フォロワーの購買行動に対して一定の影響力があるとの結果が出ています。
具体的には、パラソーシャルな関係(有名人対一般人、インフルエンサー対フォロワーの関係で、必ずしも対等な知り合いの関係ではない)が築かれている場合、インフルエンサーの意見が、たとえそれがお金をもらってやっている「やらせ」や「さくら」であっても、フォロワーにはやらせに聞こえず、本気なのだと感じ、結果として購買行動にポジティブな影響を与える傾向があるという結果でした。
大衆が一部の影響の人間に最も簡単に操作されている事を示しています。
悲しいかなこれが人間の性質で、情報弱者ほどこの被害に遭いやすい傾向があります。私は絶対に嫌なので、ソクラティック法やクリティカル・シンキングを推進して、自分の意思で生きていきたいと思います。
結果2:騙されたと気づいた時の怒り
もう一つは、逆にインフルエンサーの言動が「やらせ」や自己利益目的のためのものだとわかった場合(つまり、騙されている事を確信した場合)、フォロワーの購買行動にかえってネガティブな影響がある事もわかりました。
まあ当然の結果といえば当然です。できればそうなる前に自己責任で回避したいところですが。
結果3:インフルエンサーになるには、金持ち工作によるセルフ・ブランディングは有効?答えは否。セルフ・ディスクレパンシーの効用
では、逆に自分がインフルエンサーになって大衆を「騙したいと思えば騙せる」状況になるにはどうしたら良いのでしょうか?
どうしたらフォロワーを獲得し、パラソーシャルな関係を構築できるのか?
セルフ・プロモーション、セルフ・ブランディングといった営業活動は有効なのでしょうか?
例えば思い切り着飾ったり、いい車や高価なモノに囲まれて有名人のような写真を定期的にインスタグラムにアップしたり、架空のプロフィールをSNSに掲載し、神のように一般人には手の届かない存在の自分を作ったりするのは有効なのでしょうか?
この研究によると、答えはノーです。
確かに、自分の事を知ってもらうのは必要です。ただ、それは等身大の自分であり、飾らず、時には弱さや、カッコ悪い自分を見せた方が、フォロワーの信頼を得やすいのだそうです。
その原因は、セルフ・ディスクレパンシー(SD)なるものの作用です。
セルフ・ディスクレパンシーとはつまり、理想の自分と現実の自分とのギャップから生じる焦燥感、無力感、劣等感などのネガティブな気持ちです。
結論:やはりSNSの神のような存在はなく、生身の人間が愛される
SNSは虚偽の人間だらけです。インスタグラムには、加工だらけの現実離れした人造人間の写真が羅列され、どんなにリア充な生活をしている人でも、上を見たらキリがありません。
そんな中で、コンプレクスを感じられるずにいられる若い人はそう多くありません。
人にSDを感じさせず、ある程度の親近感を残したまま輝いている人こそが、本当のカリスマ・インフルエンサーとなり、スター・パワーを発揮するというのが、この論文の結論でした。
References
Eugene Cheng-Xi Aw, Stephanie Hui-Wen Chuah (2021) ‘Journal of Research, “Stop the unattainable ideal for an ordinary me!” fostering parasocial relationships with social media influencers: The role of self-discrepancy, 0148 (2963), pp. 146–157.